マラッカのポストも赤かった。
手紙をここに入れてね。
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雨のチャイナタウン
2010年9月30日 木曜日

Photo: "Rainy china town" 2010. Kuala Lumpur(KL), Malaysia, Sony α900, Carl Zeiss Planar T* 85mm/F1.4(ZA)
僕は、どこかに旅行に行っても、お土産というものはほとんど買わない。特に、自分のための記念品的な土産というものは、まったく買わない。しかし、仕事で渡航すればある程度の義理もあるわけで、チャイナタウン近くの怪しいショッピングモールで(秋葉原のラジオ館が土産物屋になったような雰囲気、といえば通じる人には通じるだろうか)
たいして味には期待できない、中国製のマレーシア土産のお菓子などをさんざん買って(それでも、空港で買うのに比べたら、ずいぶんと安いものだ)、晩ご飯のためにいよいよチャイナタウンに行ってみるかと、モールを出たところで、南国の夕方の雨につかまった。
カラカラに渇いたコンクリートが、生暖かい雨を吸い込む。皆、あまり慌ててはいない。こんな雨は、ここでは多分良く降るのだ。歩道の脇に掘られた、驚くほど深い水抜き用の水路は、深さが一メートル近くもある。子供が落ちたら、とは思うが、この水を埋めるような大雨がこの街を襲う事も、雨期にはあるのだろう。
首から提げているカメラは酷く濡れた。本体は一応の防水が施されているはずだが、それにしても、あまりレンズを塗らしたくは無い。近場の、本屋とドラッグストアが合体したような店に寄って、傘を買う。今だけ使うにしては少ししっかりしすぎているし、少し高い。雨の日の本屋の匂いは、日本と同じだ。リノリウムの床が、キュッと鳴る。
チャイナタウン入り口の交差点。夕暮れと雨が、景色を作っている。喧噪が雨音に静まる。横浜中華街の関帝廟と同じように、ここにもやはり関帝廟がある。門は閉ざされ、人は誰も居ない。良くできたルイビトンや、良くできたプラダを並べる露天が、奥へと続いている。
いままで仕事で過ごしてきた、日本で言えば六本木ヒルズあたりのすかしきった場所とは違って、生活の匂いがする。専門学校生だろうか、若い女の子達が、いそいそとビルに吸い込まれていく。
どこから来た猫?
2010年9月28日 火曜日
マラッカの猫は、どこからやってきたのだろう?この半島に、猫が昔から居たとは思えない。
マラッカは古くから海上交易の要衝だ。無数の船がここに投錨し、無数の人たちがここに滞在し、あるいは骨を埋めたことだろう。
今、僕のまえで長く伸びているこの猫も、その祖先は船乗りがねずみ取りのために、遙かヨーロッパから連れてきたのだろうか。あるいは、その古風な体型と顔立ちを見るに、エジプトあたりの猫発祥の地から、乗り込んできたものだろうか。
マラッカの猫の体は皆小さく、ほっそりしている。日本の海の近くの猫は、餌がよいからみな体格がよいが、ここの猫たちはそういうものでもないようだ。
飼われているのか、あるいは、そこに存在しているだけなのか、それもよく分からない。が、モスクの広場で超然と昼寝にいそしんでいる彼の目線は鋭い。
イスラムの猫だなぁ、と勝手に合点し、起こしてしまった事を詫びて立ち去る。彼の祖先は、イスラム教徒と共にダウ船に乗ってきたのかもしれない。
窓を一枚撮る。美しい。
2010年9月5日 日曜日
いきなり連れて行かれた蜂蜜農場と、マレーシアの伝統住居展示場は、ツアーに対する我々の懸念を悪い意味で裏切らなかった。腹に詰め物をした仮面の若者が、ステージでおどけて踊る謎の民族舞踊を見ながら、我々のテンションは最低に近づいて行った。まさか、マラッカの観光というのは、伊豆周辺観光スポット巡りのような物なのではないか、その懸念が頭を過ぎる。
移動するバンの窓から見える町並み。炎天下にうずくまるように建つ、低層のコンクリート打ち放しの民家は、たいぶ沖縄あたりの町並みに似ていた。あるいは、サイパンあたりで見たことがあるような気もする。そんな日常の風景に和みもしたが、がっかりもしていた。お昼少し前の時間、外に人影はない。これが、マラッカ?
それから数分、メルセデス・ベンツのおんぼろバンが、いわゆる世界遺産としての「マラッカ」の街に入ったとき、僕たちは思わず声を上げた。それまでの、炎天の下で寝ぼけたように広がっていた現代的な住宅地が、突然、赤い土壁に白い文字がアクセントのオランダ統治時代の町並みに変わった。
目が、一気に覚める。鮮烈な白や黄色の壁、西欧と中国の要素が混在した建築が、どこまでも続く街路。どこにレンズを向けても、写真になる。「そりゃ、ここに行けば良い写真が撮れるよな」とあきらめにも似た羨望で眺める、そんな景色が突然眼前に広がった。
バンを降りて直ぐに、窓を一枚撮る。美しい。
マラッカに行こう。
2010年8月31日 火曜日
ホテルのコンシェルジュとは、もちろん、あらゆるお客のあらゆるリクエストを訊く立場にあり、我々が夜の9時にもなって「明日マラッカに行きたい」と言い出しても、特に動じることは無かった。マレー訛りの弾むような英語でにこやかに、
「それは良い考えです」
とさえ言い切った。ただ、バスで現地に行くというプランは
「外国人には無理です」
ということらしい。マラッカ行きの高速バスのバス停は現在工事中で場所も移っており、恐らく飛行機の時間までに帰ってくることはできないだろう、というのがコンシェルジュの主張だった。
どうするか。ホテルが紹介するバスツアーというもがあるという。一人、220リンギットで安くはない。(タクシーを雇うと4時間で800リンギット、これは高すぎるので却下)ツアーねぇ、というのが我々の雰囲気ではあったが、マラッカに行ってなおかつ飛行機に間に合わせるためにはこれ以外の選択肢は無いように思えた。マラッカはそういえば、世界遺産なのだ。ならば行こう、マラッカへ。
翌朝八時半、ホテルに現れたのは、バス、ではなく「バンだろ」という代物であった。日本で見るメルセデスとは違う、業務車両メルセデスのバンに詰め込まれて、我々はマラッカに向かう。昨日の雨は上がり、メルセデスのガラスについた水滴越しに、朝八時半のクアラルンプール市街を眺める。良く晴れている。
街は、ブロックによってイスラム風、中華風、コスモポリタン風と景色が分かれる。モスクの尖塔が、高層ビルをバックに目立つ。クアラルンプールの市街では、ほとんどクラクションを聞かない。信号と横断歩道はいい加減で、交通ルールも緩いが、人が横断しようとすると車はクラクションを鳴らすでもなく、ちゃんと待ってくれる。その優しさと余裕というのが、僕にとってはとても新鮮だった。そこに作り物ではない、優しいアジア、みたいなものを感じたのだ。




